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東京高等裁判所 昭和47年(う)1297号 判決 1973年3月28日

本店所在地

東京都台東区柳橋一丁目三番六号

三宝商事株式会社

右代表者代表取締役

三浦稔

本籍

宮城県古川市七日町九番地

住居

東京都台東区柳橋一丁目三番六号

会社役員

三浦稔

昭和七年三月二三日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和四七年三月一〇日東京地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、弁護人から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は、検事中野博士出席のうえ審理をし、つぎのとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人吉田元作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対して、当裁判所は、つぎのとおり判断する。

所論に徴し、記録を調査し当審における事実取調の結果に基づき考察するに、被告人三浦は被告会社の業務全般を統轄掌進しているものであるところ、部下従業員に命じて、被告会社の売上の一部を公表帳簿から除外する等して所得を秘匿したうえ、本件事業年度における被告会社の所得が実際には一、三九三万余円もあったのにこれが零で納付すべき法人税額はないという確定申告をして、四六六万余円の法人税をほ脱したのである。なるほど所論の指摘する如く、売上の一部除外の操作は専ら脱税の目的のみに行なわれたものではなく(間家賃を捻出するため等の目的もあった)、また被告人三浦は自らおよび部下従業員をして本件の査察、捜査に積極的に協力し、本税、延滞税、重加算税も納付して反省しており、一応再犯の恐れはないものと認められる。しかしこれらの被告人らにとって有利な点をしん酌しても、本件犯行の態様およびほ脱税額に対してみれば、被告会社に対する一三〇万円の罰金刑が過酷なものとは認めがたく、加えて零申告であった点などを考えると、被告人三浦に対し徴役三月の刑を定め、二年間執行猶予を言い渡した原判決の量刑も重すぎるとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

よって、本件各控訴は刑事訴訟法第三九六条によりいずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 三井明 判事 石崎四郎 判事 杉山忠雄)

控訴趣意書

昭和四七年(う)第一二九七号

被告人 三宝商事株式会社

同 三浦稔

右両名に対する法人税法違反被告事件について左のとおり控訴の趣意を開陳する。

昭和四七年六月二六日

右被告人両名弁護士

吉田元

東京高等裁判所

第一三刑事部 御中

控訴趣意

原判決は刑の量定が不当である。

一、被告人らの本件売上の一部除外等の計理上の操作は原審判決のいう如く脱税そのものが目的ではない。

その主要な動機は多額な経費支出で損金勘定としては処理し得ない経費に充てるため売上金の一部(二割乃至三割)を別勘定としていた結果若干の利益の計上洩れが生じたものであった。その主要な一例を挙げれば借入店舗の闇家賃である。修正損益計算書によると公表上の家賃支出が七六五万七、〇四〇円でしかないのに計上洩れの家賃支出は二、〇二五万八、八〇〇円にも上っているのである。

右の一事をみても被告人らの売上の一部除外が法人税ほ脱のみを目的としたものでないことが明かである。

従って原審判決が指摘する簿外預金の蓄積といえるものも存在しない。修正申告書によると売上計上洩れは一億八、〇三五万一、〇六五円であるが他方経費計上洩れは二億一、二四一万三、七五八円に上っているのである。計数上からみても簿外で資産を蓄積することは不可能である。

尚三浦稔等個人名義の定期預金等の若干の存することは認められるが金額的にも少額であるし、本件会社が同族会社であってみればこれを以て簿外預金と目することは余りにも形式に偏った観察というほかない。

二、被告人らは本件査察、捜査には積極的に協力し十分なる反省をし再犯のないことを誓っている。

そうした本件事業年度の修正申告税四九〇万七、八〇〇円、重加算税一四七万二一〇〇円、延滞税六五万九、五〇〇円、合計金七〇三万九、四〇〇円を完納した。

更に検察官は原審論告意見の中で「起訴年度外において査察を受けた年度中に七、九二〇円しか納付していない」と非難されているがその起訴年度外で査察をうけた年度とは本件事業年度の前年である昭和四二年七月一日より同四三年六月三〇日までの事業年度を指されるのであるが被告会社に当該年度における修正申告税一八四万二、三〇〇円、重加算税五五万二、六〇〇円、延滞税三五万三、八〇〇円、合計金二七四万八、七〇〇円也を前記本件事業年度の納付額と共に完納済みである。

法人税法第一五九条第二項によると脱税額が五〇〇万円を超えるときは罰金の額も「五〇〇万円を超え免れた法人税額」が罰金額の上限とされていることに鑑みると、同条で罰金刑を科する趣旨が脱税額を完全に徴収するという政策目的も含まれていると解することができるのである。

以上の諸点を勘案すると、原審判決は被告会社が前記の如く脱税額はもとよりその他の附加税を完納している事実につき配慮されず被告人らにとって余りに過酷な刑の量定というほかない。

三、被告会社及その代表者である被告人は本件を契機として本件業種の如く経費がかさみ経理上の処理がともすれば杜撰となりがちであるキャバレー営業を順次縮少し業務内容を本来の観光事業へ移行しようとして努力しつゝある。この点も被告人らの自省と再起への意欲として斟酌願いたいのである。

四、以上の点を考えれば原審判決の被告会社に対する罰金刑一三〇万円は余りに高額であるし被告人に対する徴役刑の選択は猶苛酷である。

原判決を破棄され両名に対して軽い罰金刑に処せられるよう申立てるものである。

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